「ボーイミーツガール」、使い古された物語の形である。少年が少女に出会うことで化学反応が起こり、その反応によりストーリーが進んでいく。あまりにもベタな手法だが、ベタは優れているからこそベタになりえる。

 

 宮崎夏次系のデビュー短編集である本作は、どこを切り取っても異質である。やわらかい線から描き出される世界は、画面全体が不安定でつかみどころがない。物語も起伏はあるものの、のらりくらりと進んでいき、最後にはよくわからない場所に着地する。各短編を読み終わった後には狐につままれたような感覚に陥る。しかし不思議と面白い。それはなぜか。物語全体が過剰に思えるほどユニークな技法で塗り固められてはいるが、根底に流れるのは他でもない、「ボーイミーツガール」なのである。

 

 全ての短編の主人公達は、世間からどこかずれている。彼らはずれている自分を認識していて、どうしようもないものだと諦めている。そんな彼らの前に他者が現れる。他者との出会いにより彼らは変わっていく。他人に気を遣いすぎる少年は自分をさらけ出し、自分に自信のない少年は勇気を振り絞り、社会に興味のない少年は社会の中の自分の存在に気づく。彼らは他人との出会いにより変身するのである。

 

いつの時代も人は他者と出会い影響され、劇的な変身を遂げる。その構造が変わらないからこそ「ボーイミーツガール」は廃れない。いつまでも物語のベタであり続ける。