『バクマン』(大場つぐみ(原作)・小畑健(作画))にて明文化された「シリアスな笑い」という言葉。「シリアスな場面なのに笑えてしまう場面」という定義だそうだが、「笑える」というのは曖昧だ。同じ場面を見たとしても、シュールギャグだと思い笑う人もいれば、熱い場面だと感じる人もいるかもしれない。また、時代によっても感じ方は違う。結局、人によって感じ方が違うため、一概に定義は出来ないのだ。では、本作はどうだろう。
ぶっ飛んだ設定だ。相撲が国技となったアメリカ、デトロイトが舞台。人間vs機械の相撲バトルが描かれる。しかし、相撲とは言っているものの、空は飛ぶわ目くらましの光線が出るわミサイルが放たれるわ、やりたい放題である。そのくせ、いちいち相撲の小ネタが挟まれる妙な世界観がある。概要を書き連ねるとギャグとしか思えない。実際にページをめくっていっても、独特の強い輪郭線で、バカバカしい設定がそのままクソ真面目に描かれる。
それでは、そこで「シリアスな笑い」が起こるのか?少なくとも、私はノーだった。何故なら、おそらくだが、作者の意図がそこにないからだ。
設定が独特ではあるが、物語としては盛り上がる展開の組まれ方をしている。1冊半という短いページの中で、英雄の没落からの復活、親子の絆、絶対悪の存在など、魅力的な要素が詰まっている。先に書いたような、一見するとシュールな雰囲気で物語は進むが、絵の勢いと引きつける構成により、一気に読まされる。そこに「シリアスな笑い」などは挟む余地などない。この作品は、この上なく熱いスポーツ漫画だと気づかされる。勿論、相撲とは別のスポーツではあるが……
本作の単行本は2冊分冊で、今回解説したのは上巻と下巻半分で描かれる「技の章」である。下巻の後半では、作者の四季賞投稿作品である『両国リヴァイアサン』が掲載されている。絵柄に大きな違いはあるが、相撲という題材と、ノリは同じだ。シュールな世界観がクソ真面目に描かれる。デビュー作から一貫して、作者は「シリアスな笑い」を取りに行っているわけではないのだ。熱い作品を描きたいのだ。
受け手の受け取り方は自由だ。だが、情熱を込めて描かれた作品に対しては、作者の意図通り読むことが正しい楽しみ方だろう。それが一番、作品の魅力を堪能できるはずだ。それが「シリアスな笑い」ならば、そう楽しめばいい。