一部の漫画好きから多大な支持を得た前作『成程』から2年9か月、平方イコルスンの新刊『駄目な石』が発売された。小説家志望であったというイコルスンの漫画の最大の特徴は、「独特のセリフ回し」と称される登場人物同士のユニークな掛け合いだ。前作今作ともに女子高生や女子大生がだべるだけという内容の短編集となっている。加えて、基本4ページ完結、コマ割りは3段組みのみ、モノローグなどは一切なく会話のみで話が進む、というスタイルは一貫している。非常に極端な構成で、会話シーンを見せることに特化している、という印象を受ける。

イコルスンによる「独特のセリフ回し」を構成する要素の一つは「語感」にある。


『駄目な石』コマ5
『駄目な石』p14

若い女子が主体の物語にもかかわらず、古風な単語を使っての会話が繰り広げられる。普段われわれが日常生活で使わないような言葉は聞きなれない分、響きが面白く感じる。「語感」の面白さもあって、本作の帯には「声に出して読みたいコミックです。」などと書かれている。なるほど、確かに。朗読に向いてそうではある。

ただ、イコルスンの「独特のセリフ回し」のもう一つの特徴として会話の「リズム」があると思われる。 上でも書いたが、イコルスンの漫画は登場人物同士の会話を魅せることに特化しており、画面作りの節々にもそれが見受けられる。

『駄目な石』コマ4
『駄目な石』p33


会話を魅せる工夫として、異常に詰め込まれたセリフ、吹き出しの小分け、吹き出しのコマ跨ぎ、吹き出しの重ね、吹き出しなしのセリフの多様、などが多く見られる。どれも会話の臨場感、リズムを増すための仕掛けである。セリフが全て手書きなことも画面の温かみが増す結果となっており、実際の日常会話の風景を見ているかのような感覚で読むことができる。会話の「リズム」を画面全体で作っているようだ。
以上のような「語感」と「リズム」によってイコルソン漫画の「独特のセリフ回し」は形作られている。それも含めて、朗読に向いてそうである。

会話を魅せるユニークなスタイルを確立しているイコルスン作品だが、セリフを画面に詰め込みすぎて読みにくい印象があった。『成程』の頃は特にその嫌いが強かった。
ただ、最近発表された作品はずいぶん読みやすくなったように感じる。輪郭線を太くしたり、書き文字を大きくしたり、背景を簡略化したりと、読みやすくなるような細やかな工夫がされている。実は、1ページ当たりのセリフの数は『成程』と『駄目な石』で違いはない(前者25.8個/ページ、後者25.3個/ページ)。 話の密度は落とさずに読みやすくする新しいスタイルを形成しつつある。
現在、イコルスンはwebマガジン『トーチweb』にて新作『スペシャル」を連載中だ。同作は作者の初長期連載であり、また画面作りにおいても、3段組みにとらわれない自由なコマ割り、モノローグの挿入、等の新しい取り組みが垣間見える。これからもユニークさはそのままで、読みやすい漫画を描いてもらいたい。イコルスン漫画を一部の漫画好きの界隈に留めておくのは、非常にもったいないと思う。