『アナーキー・イン・ザ・JK』でまさかの集英社から商業紙デビューを果たした位置原光Zの新作オムニバス。『楽園』連載作品というのは作風的にしっくりくる。下ネタギャグというほど下品な印象ではない下ネタギャグ。なぜ下品でないかというと、下ネタといっても言葉遊び中心に軽快な会話を楽しむスタイルだからだろう。そんな下ネタセリフ回しを展開していく作風の中で目立つのが、恥じらいのないキャラだ。
本編p53より引用
本作は24の短編から成っているが、私基準で数えたところでは15の作品に恥じらいのないキャラが出てくる。出てこない作品もワンアイディアのシチュエーションコメディとして面白いが、位置原漫画の特徴といえばこの恥じらわないキャラだろう。前作『アナーキー・イン・ザ・JK』の中に登場する恥じらわないキャラとして、セックス少女(正式名称では勿論ないが、ファンなら多分わかる)が強烈だった。
恥じらわないキャラは真顔で下ネタを連呼し、周りの人間はそれに困惑、もしくは便乗する。その掛け合いは一般的な感覚からすれば非日常的でナンセンスで、魅力的である。
本編p70より引用
恥じらいのないキャラだけの掛け合いでも漫画は成立する。本作収録の『お嬢様とオレ』などは、登場人物の二人とも恥じらいのないキャラでありコメディとして十分面白い。ただ、位置原作品ではもうひと工夫して、恥じらいのないキャラを際立たせている。それが「恥じらいのないキャラ」と「恥じらい」の対比だ。当たり前のことではある。
突拍子もない下ネタを話す人物に対して、周囲の常識人が恥じらいを見せてこそ恥じらいのないキャラが際立つ。まぁいわゆるツッコミ的立ち位置だ。
ただもう一つの対比方法として、恥じらいのない人物が急に恥じらい出す、というものも本作中でいくつか見受けられた。『いい先輩』などはその典型だ。前半は先輩が恥じらいのないキャラとして描かれ後輩が引っ張られる形で会話が進むが、後半になると立場が逆転して後輩が恥じらいのないキャラとなり先輩が困惑する描写となっている。恥じらいのないキャラと恥じらいのギャップがわかりやすく描かれることで、いっそう恥じらいのないキャラが際立つ結果となっている。
本編p109より引用
ワンアイディアのみで短編が描かれるケースは多々あるが、本作はキャラをうまく使ってアイディアをより魅力的に見せている。大きなはずれのない、クオリティの高いオムニバスだった。位置原先生は兼業漫画家のようで刊行ペースは早くないが、次回作にも期待したい。