漫画は日本においては最も裾野が広いメディアだと思われる。大手だけでも月刊1000冊程度の単行本が出版されており、加えてインターネット媒体の普及により表現の場はさらに広がっている。膨大な量の漫画が世に出て行っていることは、それだけ多様かつニッチなニーズに対応する作品が生み出されているということでもある。
ただ、ここで浮上してくる問題として、題材がマニアックなだけでは対象の顧客が手に取ってくれないことが上げられる。まず、根本的に作品の知名度が足らないこともあるだろうし、題材がどストライクだとしてもそれ以外の要素ではじかれる場合もある。少しでも多くの人の目に触れて、届いてほしい顧客へと知れ渡り、一定数の読者を確保しなければならない。さらには、興味がなかった層にも魅力を伝え、潜在的な顧客を増やしていく必要もある。そのためにも、手に取ってもらうための工夫が必要となる。
今回紹介する作品の題材は「爬虫類飼育」である。学習漫画のような丁寧な描写で爬虫類の生態や飼育方法について説明されている。爬虫類の造形に関する描写も、写実的な絵とキャラクタ化された絵がうまく使い分けられており、興味がない層にも爬虫類の魅力が伝わりやすいように工夫がなされている。

p30より引用 飼育描写は非常に丁寧。

p41より引用 おまけページ。作者が解説するのが学習漫画っぽい。

p90より引用 爬虫類を知らない人にも魅力的な造形描写。
ただ、爬虫類という題材、一定数の支持者は存在するだろうが、苦手な人はとことん苦手というジャンルと思われる。その苦手な層にも手に取ってもらうための工夫として登場するのが、表紙に描かれているヒロイン、由莉である。大人びて物怖じしない女子小学生という設定の彼女は、シャープな絵柄とキャラクタ造形がマッチして非常に魅力的に描かれている。

p20より引用 ヒロインの由莉。美少女小学生。
マニアックな題材の作品に美少女をセットで出してキャッチ―にしようとする試みは他の作品でも多数見受けられる。ただ、本作のユニークなところは、メインの題材と美少女を同列として扱い、さらには性癖として比較しながら描かれているところである。
本作の主人公である裕也は爬虫類性愛(オフィディシズム)である。爬虫類飼育漫画を描くだけなら、ただの爬虫類好きの青年でも設定上良かったはずだが、敢えて特殊性癖とした理由には、同じく特殊性癖であるロリコンと対比させる狙いがある。裕也はオフィディシズムを「特殊な性癖」(p6)と自覚しながら、「俺は俺自身にロリコンじゃないことを証明する!!」(p64)とロリコンであることは否定しようとする。爬虫類の交尾をビデオで撮りながら性的興奮を感じる描写がある一方で、由莉の姿を想像しながら自慰行為にふける場面もある。直接的な性描写を交えつつ、二つの性癖の間で板挟みになっている様子が対比的に描かれている。

p66より引用 由莉が性的に描かれる場面も多い。各話表紙とか。
対比の極め付けは本作のタイトル『マドンナはガラスケースの中』である。爬虫類と由莉、どちらも過度なスキンシップは禁止である。ガラスケースの中の存在であり、触れてはいけない対象でなければいけない。少なくとも裕也の中では、その線引きがされているはずである。
由莉も裕也に惹かれていっており、恐らく二人の恋愛物としても物語は進んでいくのであろう。その際に裕也が二つの性癖に対してどのように葛藤し、解決していくかが作品のキモとなる。作者の手腕に期待。

p158より引用 ここだけ見ると、普通の恋愛物っぽい
(あくまでオタクカルチャーの中において)ロリコンはメジャーなジャンルだが、爬虫類好き(もしくはオフィディシズム)は非常に少数派であろう。本作はマニアックな題材を扱う際により多くの顧客を獲得するため、メジャーな性癖とセットで売るというユニークな方法をとった。ニッチなジャンルを狙う漫画が話題だけで終わらずに継続的に売れるためには、題材だけに胡坐をかかずに、それ相応の工夫をし新規層を開拓する必要がある。