漫画に大事なことは「リアリティ」だ、とどこかの漫画家先生も言っていた。
読者がフィクションにリアリティを感じるのは、現実に起こりそうな物語であり、
そういう点で「近未来SF」にはリアリティを感じさせる力がある。 


物語の舞台は2045年の地球。
量子コンピュータが実用化されて、衣類には自動洗浄機能が標準的についており、
火星ではナノマシンを使った環境改良によって移住計画が進行している世界観。

そんな近未来の地球に「蝶」と呼ばれる未知の敵が宇宙より飛来する。

p19
p.132, 133より引用。「蝶」と名付けられる未知の敵性物体。


「蝶」は体内のコンピュータの中で膨大な計算の残りカスを蓄えており、
TNT換算で6000万メガトン分のエネルギーを持った「情報爆弾」である。
次々と襲来する「蝶」が地表に降り立つ前に倒さなければ地球は滅亡する。

p49
 p. 49より引用。「蝶」は巨大なエネルギーを蓄えた「情報爆弾」。


そんな「蝶」を撃退するために人間側が用意したのが、
感情を持ったAIを搭載したヒューマノイド、アダムである。
アダムが「蝶」と物理的にコンタクトし、自身に搭載された量子コンピュータチップにて
「蝶」が体内にため込んだ計算を逆演算で処理し無効化する。

p50
p. 50より引用。ヒューマノイドのアダム。人類のために「蝶」と戦う。


ここまでの説明でも伝わったかと思うが、
この作品は読む人によっては非常に理屈っぽく感じるだろう。
宇宙から未知の生物っぽいものが地球を侵略しにきてるんだから、
未知のエネルギーで爆発でも起こせばよいのに、
そこを敢えて科学的な要素を盛り込んで「情報爆弾」とした。

それ以外にも本作はサイエンス的な要素が至る所に盛り込まれており、
枠外の脚注でテクニカルタームが補足されていることも多い。
各話の間にはサイエンストピックに関するコラムも掲載されている。
その中でも科学技術を題材とした実在の参考図書が紹介されていたりと、
かなり現実的な範囲での近未来SF作品であることがわかる。

p68,69
p. 68, 69から引用。科学技術に関するコラム。読みごたえがある。

 
そして冒頭でも述べたが、近未来SF要素こそ本作のリアリティ要素を演出するキモである。
しかも、かなり暴力的に腕力で読者を納得させようとしているところが面白い。

普通の人々にとって科学は、論理的で間違いがなく普遍的な信頼できるものだ。
科学的要素が、しかもどこかで聞いたことがあるような単語を使って描かれれることで、
読み手は問答無用で「リアリティ」を感じさせられる。
そして、少なくとも作品の世界観の中でリアリティがあって、
読者を作品世界に浸らせることが出来ればフィクションとして大成功である。
フィクションにリアリティを付加する方法は色々考えられるが、
サイエンスという要素は非常にシンプルでパワフルだ。

この作品のユニークな点は、物語全体としての
ディティールの弱さを科学要素の腕力で補っているところである。
例えば、物語の主要キャラは優秀な人材が集まっているはずなのに、
対「蝶」に対する戦略がガバガバだったりと、どこか間が抜けている。
その辺のリアリティの不足分を近未来SF要素で補ってるように感じた。

ある話の中で、敵の「蝶」の体表面が電気で覆われている場面があり、
その場で「「蝶」の身体がトポロジカル半導体で構成されているから
表面しか電気が流れない」とある人物が断定する。
もっとシンプルに体表面だけ電気を流す手段もありそうなものだが、
「トポロジカル半導体」という科学ワードのそれっぽさでそのまま話が進む。
読者もSF要素に騙されて「リアリティ」を感じてしまう。
その科学ワードの魔力こそが近未来SFの「リアリティっぽさ」だろう。

p186,187
p. 187より引用。トポロジカル半導体というそれっぽい科学ワード。


まぁ少々手荒な手段をとっていても、本作が魅力的な科学技術要素を詰め込んだ
骨太なハードSFであることは変わらない。
過去に起こったAIの暴走事故やライバルロボットの出現など、
まだまだ物語は面白くなっていく雰囲気がある。今後を楽しみにしたい。