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『青のフラッグ』4巻までのネタバレあり考察記事です。未読の方は注意。

 本作は高校生男女4人組を中心に、各キャラクタが抱く友情や憧れ、そして恋愛が入り混じる複雑な気持ちを描いた作品だ。4人組と書いたが、正確には3人+1人という様相を呈している。他キャラクタの引き立て役になりがちな最後の1人の苦悩と躍進、そして今後予想される展開について本記事にて考察する。

 主人公の一ノ瀬太一はやや地味な男子高校生。これといった特技ややりたいこともなく日々を虚ろに過ごしている。そんな太一の幼馴染である三田桃真は野球部のキャプテン、容姿端麗かつ明るい性格でクラスの中心的存在である。そんな桃真の存在に劣等感を覚えて昔のように関わらないようにしている太一だが、桃真に憧れているという小動物のようなクラスメイト、空勢二葉の恋をひょんなことから応援することになり事態は一変、奇妙な三角関係へと発展していく。

 本作のスタート段階では、1巻75ページにて「オレ達三人は 同じクラスになってしまった」という文言があるように、太一、二葉、桃真にスポットライトが当てられて物語が始まる。もう一人のキーマンである二葉の親友である伊達真澄について、1話時点ではモブキャラのような扱いであり、3話にてようやく本格的に登場する。登場以降は他3人と一緒に行動することが多く、彼女を中心としたエピソードなども用意されている真澄であるが、4巻までの表紙に彼女は登場していない。あくまで彼女は3人の物語の引き立て役なのである。

 作中における真澄の最も大きな役割は、桃真の秘めたる太一への恋愛感情(作中にて明言はされていない。これがミスリードなら大したものだが。)の理解者としてのポジションだろう。桃真と同じように、同性かつ近しい存在である二葉に恋をする(これも明言されていないが)真澄の存在がなければ、本作の最も大きな特徴の一つである桃真の恋愛感情が明確に読者へと示せなかったであろう。

 1巻ラストの屋上シーン以降も真澄は桃真の唯一の理解者として、要所要所で彼の現在の感情を読者に伝えるための場面作りの役割を果たす。また桃真に対して以外にも、真澄は献身的とも言えるほど引き立て役としての動きを全うする。太一に対して、1巻では太一が二葉への恋愛感情を認識するきっかけを作るし、2巻では太一が元来持っている他人に対する優しさを演出する。二葉に対して、桃真に対する感情は憧れで太一に抱く感情こそが恋である、と3巻の真澄との対話の中で二葉は気づく。太一と二葉、桃真の三角関係とクリアになっていく各個人の感情を魅せるため、真澄の存在は本作において欠かせない存在である。では、真澄が抱く感情は誰がフォローしてくれるのか。

 本作は友情や憧れ、そして恋愛が入り混じる複雑な気持ちがどこかに落ち着いていく過程を描いた作品である。太一の頂く桃真への嫉妬は、相互の理解の末に友情となっていくであろう。双葉が桃真に抱いていた恋心は憧れであったと結論付けられたし、太一に対する共感や興味は恋愛感情由来のものであった。桃真については、太一に対する恋愛感情がどの程度かがまだ明示されていないので今後の予想が難しい。2巻にて桃真は「オレはまだ (真澄と)同じにもなれてないんだよ」と真澄に話をする。その前の場面で真澄は「反対して離れられたほうが よっぽど堪えたのよ」と言っており、詳細は不明だが過去に二葉に対して何かアプローチを試みたことを匂わせる。あくまで予測ではあるが、桃真の太一への感情はまだ成熟しきっていない。今後の展開次第では、太一と二葉の交際を許容し、自分は親友として近い位置にいることで満足することも十分考えられる。

 一方の真澄について、彼女の二葉への感情にブレはなく一貫して恋愛感情である。2巻の太一に対する真澄の独白のシーンにおけるセリフが全て彼女の真意とするならば、二葉から同性の友人としか認識されていないことに思い悩み続けている様子である。その秘め続けていた感情が、4巻のラストにて爆発する。「でも私は... 私がなりたい自分は どうしてこんなに人の目を 恐れなければいけないの?」「何よりあの子の幸せを 望んでいると思っていたクセに」「私は嫌 嫌よ」。恋は独占欲だ。その人の全てを自分のものにしたくなるのだ。彼女の気持ちは友情になんか落ち着かない。彼女のブレない感情が他3人の落ち着き始めた関係性をかき乱す。引き立て役だった彼女が自分の意思を明確に示すことで物語の主役へと躍り出たのだ。