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アニメも放映中の『プラネット・ウィズ』、漫画版も負けず劣らず素晴らしいので皆読みましょうという話です。

 アニメ版『プラネット・ウィズ』は漫画家 水上悟志先生が描き下ろした約1,000ページのネームをもとに作られている。一方で漫画版は、そのネームを水上先生自らが漫画連載用に再構築したものとなっている。漫画作品のアニメ化やアニメオリジナル作品のコミカライズなどは珍しいことではない。ただ本作は「漫画家のネームからアニメを作る」という企画の性質上、アニメ側への漫画家の介入度合いが比較的強いと思われ、そういった意味で特異な例と言える。
 アニメ版と漫画版を比べてみると、ストーリーやキャラクタ造形、場面の切り替え方などほぼ等しい。ただ随所にアニメならではの演出、漫画ならではの演出が散りばめられている。いくつか例をあげて解説する(本ブログの性質上、漫画版の方に重きを置くことをご容赦頂きたい)。
 まずはアニメ版。アニメの強みは何といっても情報量の多さにある。フルカラーの画面、声・効果音・BGMを組み合わせた音響演出、キャラクタ達の動き、連続的なカメラワークによる空間演出、などなど、漫画とは比較にならない圧倒的な情報量で作品が彩られている。特に本作においては、3Dモデルでヌルヌル動くロボット(?)達が繰り広げる戦闘シーンが素晴らしい。声優もキャラクタにマッチしており熱演が光る。総じて、アニメという媒体の特性をしっかり活かしていると言える。
 一方で漫画版。媒体としたはアニメと比較して受け手に与える情報量が少ない。その分、漫画ならではの表現技法が巧みに用いられている。特にテンポの面では水上先生の漫画の上手さが際立っており、アニメに負けない快適さで作品世界を楽しむことができる。
 漫画版『プラネット・ウィズ(1)』内で用いられている表現技法について、いくつか例をあげて紹介する。
(以下の画像は全て『プラネット・ウィズ(1)』より引用)


1)コマ割りを横断する「視野」誘導演出

 図1に一般的な「視線」の動きを示す。日本の漫画は右上から左下にコマが並んでいるため、その順番に視線が動いていく。

p12-13その1
図1 本編p12, 13より引用。赤で示すのは一般的な視線の動き。

 ただ、漫画を読む際の視線は実際にはもっと細かく動いている。漫画を読む人の視野の動きを計測した面白い実験が下記URLで行われているので参考にして欲しい。
『漫画を読むときの視線の計測』:心理区)
 一方で、当たり前だが人間は「点」ではなく「面」でものを見ている。視「線」の動きだけでは読者が見ている「面」の範囲を評価できていない。
 そこで視線の動きではなく、「視野」の動きを評価してみる。図2には私が図1のページを読んだ際の、細かな視線の動きを省略した視線の動き赤線で、それに付随する「視野」の範囲を黄色で示す。この視野の動きは私が漫画を読む際の一例であり普遍的なものではないが、誰が読んでも大きく違いは出ないと思われる。
 ここで着目すべきは、視野がコマ割りを横断していることだ。一つ一つのコマを注視するのではなく、隣接するコマをセットで見ている。12ページ3、4コマ目の先生がキャベツを齧る動きなどがわかりやすく、2つのコマを1つの視野の中に入れてセットで見ることを意識したコマ割りであろう。
 視野の中に複数のコマを入れることで多方向からの画面や時系列の動きなどを一度に得ることができるため、情報が整理しやすくテンポもよくなる。アニメでもコマ割り演出は可能だが多様されることはなく、漫画独特の表現技法と言えるだろう。この視野の動きを制御するコマ割りおよび画面演出を本記事中では「視野誘導」と呼ぶこととする。

p12-13その3
図2 本編p12, 13より引用。赤で示すのは視線の動きを単純化したもの、黄色で示すのは一度に情報として入ってくる「視野」。

 次に視野誘導を使った他の演出例を示す。図3のページでは、左右に分かれた3段のコマ割りで徐々にカメラがクローズアップされていく。視線はページ上から下に動いていき、左右のコマを同じ視野内に入れることができるため、左右の対比がわかりやすい。

p116
図3 本編p116より引用。左右に分かれたコマ割りを使った視野誘導例。

 もう一つ、視野を使った演出を紹介。図4の下段の3コマは同視野内に入っており、ボケツッコミの応酬となる3つのセリフも同時に目に飛び込んでくるためスピード感がある。個人的に、アニメ版のこの場面の演出が若干テンポが悪いと感じたが、漫画版はその点が改良されている。

p80
図4 本編p80より引用。下段の3つのセリフが同視野内に入るため掛け合いのスピードが早い。


2)大ゴマによる視野拡大と「一枚絵」となる見開き演出

 1)で示した視野誘導の応用版が「視野拡大」である。図5には視野拡大の例を示す。コマが大きくなった場合、そのコマ全体を見渡すために視野が拡大する。図5で言うと、黄色で示す視野範囲が広がるイメージである。視野の拡大により、よりダイナミックな画面表現が可能となる。その最たるものが、漫画における見開き表現である。

p72-73
図5 本編p72, 73より引用。大ゴマによる視野拡大例。

 見開きによる視野拡大例を図6に示す。3コマに分かれているがページを横断する擬音と見開き表現で、視野を2ページに渡って拡大させている。もはやコマが割ってはいるが「一枚絵」に近い感覚となっている。この3コマはそれぞれ、カメラ位置と時系列が異なっており、それらの情報を一度に読者に伝える素晴らしい見開き演出である。

p76-77
図6 本編p76, 77より引用。見開きによる視野拡大例。


3)ページめくりによる場面転換

 漫画ならではの表現技法として「ページめくり」がある。図7の左に示すページをめくると右のページとなり、場面転換(この場合、場面は変わっていないが)が制御されている。これも視野をページの隔たりによりあえて「さえぎる」ことによる視野誘導と言えるかもしれない。

p127-128

図7 本編p127, 128より引用。ページめくりによる場面転換演出。


 以上の3つの視野誘導による漫画演出を存分に使用しているのが本編170ページから177ページまでの4見開きである(図8-1から8-4参照)。一連の流れが素晴らしいので紹介する。
 まず170, 171ページは動きの導入。横長コマ連続から大ゴマへの移行でスピード感が演出されている。
 そこからページめくりによる場面転換を行った後の172, 173ページでは、対比的な縦長コマを左右に、真ん中に見開きで大ゴマが配置されている。左から右への自然な視野誘導が制御されている。
 174, 175ページでは細長い縦長コマを並べることで同視野内に1~4コマ目が自然に入ってくる。1~3コマ目の「動」と4~6コマ目の「静」の対比もメリハリが利いている。
 176, 177ページ、1~3コマ目ではコマ枠を飛び出した「手」により視野の拡大が図られている。4, 5コマ目および6, 7コマ目の対比的な構図を同視野内に入れる演出も素晴らしい。 

p170-171
図8-1 本編p170, 171より引用。スピード感のある動きの導入。

p172-173
図8-2 本編p172, 173より引用。p171よりページめくりで場面転換。見開きと縦長コマによる視野誘導。

p174-175
図8-3 本編p174, 175より引用。縦長の細いコマを隣接させることにより視野拡大。

p176-177
図8-4 本編p176, 177より引用。コマ割りをはみ出す手により視野拡大。同視野内に対比的なコマを配置。

 以上、簡単ながら漫画版『プラネット・ウィズ』の漫画表現について考察した。漫画巧者である水上悟志先生による「セルフ」コミカライズ、様々な漫画技法が駆使されておりアニメに負けず劣らず素晴らしい出来。アニメで興味を持った人も、是非漫画版を買って読みましょう。