『クニゲイ~大國大学藝術学部映画学科~(2)』(高野陽介)
映画監督に憧れる青年と天才肌で破天荒なもう一人の青年を描く芸大映画学科が舞台の物語。
圧倒的才能を前に一度は挫折した主人公が情熱をもって立ち上がって天才に食らいついていくストーリー構成が熱い。作中の創作論も興味深い。
『サンキューピッチ(1)』(住吉九)
ある制約を抱えたピッチャーの少年を中心に曲者揃いの野球部を描く高校野球物。
ケレン味の強いキャラクタ達がロジカルっぽい思考を駆使して野球を分析する雰囲気は非常に独特。ハッタリを利かせつつリアリティも感じさせる描写のバランスも絶妙。
『ふつうの軽音部(5)』(出内テツオ/クワハリ)
渋めの邦楽ロック好きの少女を中心に高校軽音部の交流を描く物語。
ため込んだ感情を一気に開放するようなライブシーンはキャラクタ表情などの演出が秀逸で爽快。ライブに感化された主人公一行が同じ目標に向かって歩み始めるストーリー構成も素晴らしい。
『下足痕踏んじゃいました(5)』(麻生みこと)
誘拐などの凶悪事件を担当する新米刑事とパートナー先輩女性とのコンビを描いた作品。
刑事と犯罪者、両陣営ともに完璧ではなく隙も含めて描くことでにリアリティのある描写となっている。複雑な人間模様をストレス少なく読ませる構成力もお見事。
『杉雪カコと見たい明日(1)』(ノッツ)
ある条件を満たさなければ同じ一日をループする高校生男女二人の交流を描くラブコメ。
主人公二人の駆け引きにループ設定が上手く入れ込まれておりストーリー構成がよく練り込まれている印象。コメディ密度の濃さや小ネタの多さも良い。
『極主夫道(15)』(おおのこうすけ)
元ヤクザの強面過ぎる主夫と肝っ玉の据わった妻を中心に繰り広げられるコメディ。
アホな設定と迫力のある画面、ヘンテコなシチュエーション演出を駆使して全力でバカをやるぞという作者の気概が感じ取れて楽しい。ストレスなく読める良いコメディ。
『推しが死んだ朝』(古屋兎丸)
50年前に推しだった2.5次元舞台を未だに想い続ける老婆を描くお話を含む2編を収録した作品集。
古屋兎丸先生の美しい描線で描かれるキャラクタには生命力が宿っており、推し活という本作の題材とマッチしていた。表題作の仕掛けのあるストーリー構成も見事。
『東京最低最悪最高!(1)』(鳥トマト)
東京の出版社を舞台に現実に絶望しつつも折り合いをつけながら生きる人々を描く群像劇。
現代日本の生き辛さを誇張して醜悪に描くスタイルは悪趣味ながらインパクトが強い。どん底に落としながらもわずかな救いの兆しを見せるストーリー構成もお見事。
『ながたんと青と-いちかの料理帖-(13)』(磯谷友紀)
客足の遠のいた料亭の跡取り女性とそこに婿養子に来た口の悪い青年が主人公の料亭物語。
悲しいことも外乱も乗り越えながら家族としての絆を深めていく主人公達が素敵。バラバラだった三兄弟がいよいよ結託するストーリーも強い。
『黒魔法寮の三悪人(3)』(斎藤キミオ)
荒ぶる若者の巣窟である黒魔法寮に配属された三人の少女達が主人公の魔法学園コメディ。
主人公三人が徹底的に性根が腐っているように描かれているのがキャラクタとして強い。次々騒動が巻き起こる密度の濃いハイテンポなコメディスタイルも良い。
『ホテル・メッツァペウラへようこそ(6)』(福田星良)
フィンランドのホテルで働くことになった訳あり日本人青年が主人公の物語。
主人公の優しい人柄が周囲の人々を惹きつけて交友関係が構築されていくストーリーが素敵。フィンランドの文化も魅力的に描かれており自分も訪れてみたくなる。
『本なら売るほど(1)』(児島青)
古本屋を営む男性とそこに訪れる様々な人々との交流を描いたオムニバス。
丁寧に描かれる古本屋業務の内容も興味深いし、繰り広げられる人間ドラマは多様でどの登場人物も人間味あふれており魅力的。繊細な絵柄と緩急をつけた画面表現も素敵。
『バットゥータ先生のグルメアンナイト(3)(完)』(亀)
14世紀に中東やインドなどを旅した実在の人物と彼の奴隷である女性との旅を描く物語。
絵柄や掛け合いはライトな雰囲気ながら当時の文化的描写やイスラム教などの教えを踏まえた思想描写などはディープで骨太な作品だった。
『スナックバス江(16)』(フォビドゥン澁川)
老婆とチーママが切り盛りする場末のスナックを舞台にしたギャグ漫画。
ゲスながら憎めないキャラクタ達やワンアイディアから広げるネタの豊富さ、機知に富んだ言葉選び、多様な漫画表現、ツッコミの鋭さなど、どの要素もコメディとして一級品。
『邪神の弁当屋さん(1)』(イシコ)
戦争を起こした罪で人間として謹慎中の神が弁当屋として働きながら人々と交流する物語。
描線が太くデフォルメ強めな作画が淡白なようでハートフルな漫画描写とマッチしており素晴らしい。背景が徐々に明かされていくストーリー構成も素敵。
『望郷太郎(12)』(山田芳裕)
500年のコールドスリープから目覚めた男がイランから日本へ荒廃した世界を旅する物語。
過酷な旅の末に故郷に降り立った主人公の感動を鮮明に伝える漫画表現が素晴らしい。通貨などの価値について再認識させる世界観や設定もよく作り込まれている。
『だんドーン(6)』(秦三子)
幕末を舞台に「日本警察の父」と呼ばれる男、川路利良の生涯を描く物語。
現代人と当時を生きる人々の価値観の乖離をコメディとシリアスを混在させながら描く漫画技巧が巧み。史実と創作のバランスも良い塩梅で作品全体が上手く制御されている印象。
『みちかとまり(3)』(田島列島)
田舎に住む少女と不思議な力を持ったもう一人の少女との交流を描いた作品。
不条理で理屈が通じない作品世界を読者に理解させないままに恐怖を感じさせるスタイルは非常に独特。柔らかい絵柄と素っ頓狂なコメディもホラー演出を引き立てている。
『メダリスト(12)』(つるまいかだ)
スケートに賭ける少女と熱血男性コーチのコンビがメダリストを目指すフィギュアスケート物語。
ライバルキャラの深掘りで選手とコーチ二人それぞれの対比構図がより明確となり緊迫感が高まる。毎巻最高潮と感じさせる盛り上げ方や長期ストーリー構成力も秀逸。
『青春爆走!(2)』(研そうげん)
高校デビューに失敗し性欲を持て余す男子高校生がある目的のために活動を始める物語。
それぞれ目的の異なるメイン4人の人間関係が脆く瓦解していく描写にリアリティがある。危うい方向に迷走するキャラクタ達の若さと向こう見ずな姿がスリリング。
『佐々田は友達(3)(完)』(スタニング沢村)
人づきあいが苦手な陰キャ少女とクラスの中心のパリピ少女、二人の少女の交流を描いた作品。
性質が異なるけど友達になった二人の関係性の最終的な着地点やそれを青い思い出として振り返る最終話の構成が美しかった。綺麗にまとまった良い最終巻でした。
『キレてるふたりの出張めし(1)』(岩国ひろひと)
筋トレが趣味の女性と彼女に振り回される上司の男性の出張先での食事風景を描くグルメ物。
突拍子もない女性側の行動が何だかんだで事態を好転させていくお話の構成がわかりやすい。登場するグルメや肉体の作画も気合が入っていて強い。
『ITおじさん(3)』(山田しいた)
中堅IT企業で働く管理職男性とその部下達の業務の様子を描いたギャグ漫画。
一次産業でのデジタル活用や事業継続計画など、流行のビジネストピックが誇張された上でギャグに変換されておりバカバカしくって楽しい。会社と趣味の両立などの社会人ネタも良い。
『米蔵夫婦のレシピ帳(5)(完)』(片山ユキヲ)
妻に先立たれた堅物な小説家の男性が妻の残したレシピ本を元に料理を作り記憶を辿る物語。
グリーフケアが題材の作品としてこれ以上ないと思わせるストーリー構成。物語の集大成である最終話は全てのコマで目頭が熱くなった。傑作でした。
『らーめん再遊記(12)』(久部緑郎/河合単)
かつてはラーメン界のカリスマと呼ばれた男の人生の次のステージを描く物語。
酔ったうえでの失態やそれに対する強引のリカバリーなど、主人公の強引に物語を展開する腕力がすさまじい。同族経営の後継者問題などビジネストピックのチョイスも鋭い。
『あたしのザジ 下』(灰田高鴻)
飼い猫を亡くした少女がその猫の面影のある青年に対してある行為を行う物語。
人間関係と各人の思惑が複雑に絡み合い混沌としていたがストーリーとしては上下巻で綺麗にまとまっていた印象。倒錯的な性描写も含めて作者の拘りを感じるユニークな作品でした。
『シルク・フロス・ボート(1)』(ほそやゆきの)
クラスメイトを亡くした少女と近所の女子大学生との蚕の飼育を通した不思議な交流を描く物語。
ユニークな画面表現を用いてキャラクタ達の感情の機微が描かれており巧み。謎めいた超常現象と蚕飼育の現実感が合わさった雰囲気も面白い。
『チー付与(1)~(13)』(業務用餅/kisui/六志麻あさ)
物質を強化する能力を持つ青年と彼が所属する冒険者団体の人々を描くファンタジー作品。
科学と魔法がそれぞれ存在するオリジナリティの高い世界観や不条理なギャグスタイル、巧みな漫画表現、など尖った魅力がある各要素が上手くかみ合っている印象。
『地元最高!(7)』(usagi)
イリーガルなアングラ世界を生きる女の子達のすさんだ日常を描く物語。
強烈だった警察キャラは再登場の含みを残しつつ退場し、最終章として半グレvsヤクザが開始。ヤクザの狡猾さや暴力が本作らしい生々しさで、どのように描かれていくか楽しみ。